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第一章 冬〜北風の唄〜
第一話

それは 身を切るような、

ひゅう ひゅうう
悴んだ手を握り締めて、僕は足早に雑踏の中を過ぎていく。
少し前まで鮮やかな色彩を身に纏っていた街路樹は、その葉を落とし、寒々しい焦げ茶の幹をむき出しにしている。
街は、冷たい。
大通りを抜けて、裏路地へ。少し入れば、そこは閑散とした別世界。この時期は、じわじわと侵略するような寒気が支配している。
ひゅう ひゅぅ・・・・
ふと、吹き荒ぶ風に耳を傾けた。

とてつもない 寒さの中で

―――――♪
唄だ。唄が聞こえる。
どこから、というのは分からない。寒空の中、ストリートミュージシャンが歌っているような類ではないようだし。いったい何故・・・・・?
いつしか、人は僕以外通りから消えていて。
僕はとりあえず進むことにした。別にそうとやかく詮索する程でもないと思ったから。
かつ かつ かつ かつ
アスファルトの地面をならして、僕は大気を裂いて進む。
びゅうう ひゅうう

耳にしたのは

―――♪
・・・・唄が近づいている。向こうの方が音源なのか。
さっきから人に会わない。
どうやら北風の領域に僕が侵入してしまったことになっているようだ。
まぁ、好き好んで暖かな雑踏を抜けて裏路地を通ろうという人は早々居ないだろうし。
ひゅう   ―♪
北風に混じって唄が聞こえる。風に乗って運ばれて来ているのか・・・?
・・・て・・・・♪・・なのに・・・・・・♪
歌詞までわずかだが聞こえるようになった。どうやらこの先で誰かが歌っているらしい。
かつん。
視界が開けた。
どこにも在りはしないのに なぜ聞こえるのだろう♪
今は、はっきりと聞こえる歌詞。
ああ。全くだ。
そこには 誰も 。

風が運ぶ 世界の唄